道路・交通に関するコンサルタント業務ノート

道路・交通関連の設計やコンサルタント業務にまつわるノウハウメモ&レポート

最後の警告-道路の老朽化対策の本格実施 に関する提言-

1.最初に

「最後の警告-今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」

  • 「静かに危機は進行している」
  • 「すでに警鐘は鳴らされている」
  • 「行動を起こす最後の機会は今」

上記は平成26年4月14日に、国交省所管の「社会資本整備審議会 道路分科会」の提言「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」の序章の見出しタイトルです。

道路:道路の老朽化対策の本格実施に関する提言 - 国土交通省

 

国交省というお役所から出された資料の文言としてはドラスティックで挑発的です。

道路インフラについては数年前から、長引く不況から無駄な道路整備より維持管理の時代という認識でしたが、この提言では現在でも全然本格的に実施されていないことが示されています。

以下に序章を抜粋します。

管理責任者にとどまらず国民も含めて社会全体が無関心

デフレが進行する社会情勢や財政事情を反映して、その後の社会の動きはこの警告に逆行するものとなっている。即ち、平成17 年の道路関係四公団民営化に際しては高速道路の管理費が約30%削減され、平成21年の事業仕分けでは直轄国道の維持管理費を10~20%削減することが結論とされた。そして、社会全体がインフラのメンテナンスに関心を示さないまま、時間が過ぎていった。国民も、管理責任のある地方自治体の長も、まだ橋はずっとこのままであると思っているのだろうか。

米国「カトリーナ」台風被災を反面教師に。

2005 年8 月、米国ニューオーリンズを巨大ハリケーン「カトリーナ」が襲い、甚大な被害の様子が世界に報道された。実はこの災害は早くから想定されていた。ニューオーリンズの巨大ハリケーンによる危険性は、何年も前から専門家によって政府に警告され、前年にも連邦緊急事態管理庁FEMA)の災害研究で、その危険性は明確に指摘されていたのである。にもかかわらず投資は実行されず、死者1330 人、被災世帯250 万という巨大な被害を出している。「来るかもしれないし、すぐには来ないかもしれない」という不確実な状況の中で、現在の資源を将来の安全に投資する決断ができなかったこの例を反面教師としなければならない。

 可能性のあることは必ず起こる。

橋やトンネルも「壊れるかもしれないし、すぐには壊れないかもしれない」という感覚があるのではないだろうか。地方公共団体の長や行政も「まさか自分の任期中は…」という感覚はないだろうか。しかし、私たちは東日本大震災で経験したではないか。千年に一度だろうが、可能性のあることは必ず起こると。笹子トンネル事故で、すでに警鐘は鳴らされているのだ。

  道路先進国アメリカが直面した「荒廃するアメリカ」

1920 年代から幹線道路網を整備した米国は、1980 年代に入ると各地で橋や道路が壊れ使用不能になる「荒廃するアメリカ」といわれる事態に直面した。インフラ予算を削減し続けた結果である。連邦政府はその後急ピッチで予算を増やし改善に努めている。それらの改善された社会インフラは、その後の米国の発展を支え続けている。

「荒廃するニッポン」が始まる前に

日本社会が置かれている状況は、1980 年代の米国同様、危機が危険に、危険が崩壊に発展しかねないレベルまで達している。「笹子の警鐘」を確かな教訓とし、「荒廃するニッポン」が始まる前に、一刻も早く本格的なメンテナンス体制を構築しなければならない。
そのために国は、「道路管理者に対して厳しく点検を義務化」し、「産学官の予算・人材・技術のリソースをすべて投入する総力戦の体制を構築」し、「政治、報道機関、世論の理解と支持を得る努力」を実行するよう提言する。

 以下、「道路インフラの現状」「課題」「取り組みの方向性」「具体的な取り組み」と続きます。

 

2.道路インフラの現状

  • 全国に約70 万橋、道路トンネルは約1万本存在。
  • 全国約70 万橋の橋梁のうち、7割以上となる約50 万橋が市町村道にあり、大部分は地方公共団体が管理するものである。
  • 高度経済成長期以降に集中的に整備した橋梁やトンネルが、今後急速に高齢化し、10 年後には建設後50 年経過する橋梁が4割以上になると見込まれている。
  • トンネルにおけるコンクリート片落下や道路照明柱の腐食による転倒事故等も毎年のように発生している。
  • 東京オリンピック大阪万博等に間に合わせるため、緊急的に整備された箇所や、沿岸部、水中部など立地環境の厳しい場所などでは、近年、一部の施設で老朽化による変状が顕在化している。
  • 日本は歴史的に木で橋を建設してきており、洪水による流出、火災などにより架け替えを行うことが普通であった。
  • 鉄・コンクリートでの橋の整備が本格化したのは昭和30 年前後であり、それらは「永久橋」と呼ばれ、鋼橋は塗装の塗り替えのみで良く、メンテナンス・フリーと考えられていたことから、その維持管理の必要性が十分認識されていなかった。

3.老朽化対策の課題

【予算】

  • 直轄国道の維持修繕予算は最近10 年間で約2割減少している。直轄国道の維持修繕予算 平成16 年度当初予算:3,202 億円→ 平成25 年度当初予算:2,515 億円
  • 財政的な厳しさから、市区町村の約7割が新規投資が困難になることに加え、約9割が老朽化対策に係る予算不足による安全性への支障発生についての懸念を示している。

【体制】

  • 町の約5割、村の約7割で橋梁保全業務に携わっている土木技術者が存在しない。
  • さらに、地方公共団体の橋梁点検要領では、遠望目視による点検も多く(約8割)、点検の質にも課題がある。
    橋梁保全業務に携わる技術者数が0人:(町)約5割、(村)約7割
    ・橋梁点検要領に点検方法として遠望目視を定めている都道府県・政令市:約8割
  • 地方公共団体が管理する橋梁の約半数は建設年度が不明で、「道路台帳(橋調書)の作成が不十分」「橋梁設計図書を保存・管理していない道路管理者も多数存在」とも指摘されている。
  • 不測の事態が生じた場合に第三者被害等が重大となる高速道路の跨道橋について、交通量が少ない等の理由から、各道路管理者における維持管理の優先度が低く、点検が実施されていないものがある。 ・高速道路を跨ぐ橋梁を未点検又は点検不明地方公共団体:約140 橋/約3,300 橋

【メンテナンス産業】

  • 修繕工事は新設工事と比べて手間がかかり、人件費や機材のコストが割高になり、規模などの発注条件によっては利益が出にくい。
  • 設計と施工の実態が異なり、再設計や契約変更が必要になることが多いなどの指摘がある。
  • 委託業者の確保が心配・困難と想定する地方公共団体が5割以上

4.対策の方向性

(1)メンテナンス元年の取組み

  • 平成25 年の道路法改正により、点検基準の法定化や国による修繕等代行制度の創設等を実施。
  • 平成25 年3月に「社会資本の老朽化対策会議」において「当面講ずべき措置」の工程表をとりまとめ。
  • 同年11 月には「インフラ老朽化対策の推進に関する関係省庁連絡会議」において「インフラ長寿命化基本計画」これに基づき、国土交通省の「インフラ長寿命化計画(行動計画)」を策定予定。

(2)目指すべき方向性

① メンテナンスサイクルを確定(道路管理者の義務の明確化)
・国民が安心して使い続けられるよう、道路管理者がすべきこと(ルール・基準)を明確化するため、道路法に基づく点検や診断の基準を規定

② メンテナンスサイクルを回す仕組みを構築
・予算、体制、技術を組み合わせ、各道路管理者におけるメンテナンスサイクルを持続的に回す仕組みを構築。あわせて、道路の老朽化や取組みの現状、さらに各道路管理者が維持管理・更新に責任を有すること、必要な予算規模等について国民・利用者の理解と支持が得られるよう努めるべきである。

5.具体的な取組み

  • 橋梁、トンネル等については、国が定める統一的な基準によって、5年に1度、近接目視による全数監視を実施。
  • 舗装、照明柱等構造が比較的単純なものは、経年的な劣化に基づき適切な更新年数を設定し、点検・更新することを検討。
  • 緊急輸送道路上の橋梁や高速道路の跨道橋などの重要度や施設の健全度等から、優先順位を決めて点検を実施。
  • 全国の橋梁等の健全度を把握し比較できるよう、統一的な尺度で、『道路インフラ健診』と呼べる健全度の判定区分を設定し、診断を実施。
  • 損傷の原因、施設に求められる機能、ライフサイクルコスト等を考慮して修繕計画を策定し、計画的に修繕を実施。
  • すぐに措置が必要と診断された施設について、予算や技術的理由から、必要な修繕ができない場合は、通行規制・通行止めを実施。
  • 人口減少、土地利用の変化など、社会構造の変化に伴う橋梁等の利用状況を踏まえ、必要に応じて橋梁等の集約化・撤去を実施。

 

  • 緊急措置が必要と判断されても適切な措置が行われていない場合等は、国が必要な手順を踏んだ上で地方公共団体に対し適切な措置を講じるよう勧告・指示。

  • 直轄国道においては、点検・修繕を的確に実施するため、必要な予算を最優先で確保する。
  • 点検を適正に実施している地方公共団体に対し、重要度や健全度に応じた交付金の重点配分や、複数年にわたり集中的に実施する大規模修繕・更新を支援する補助制度を検討する。
  • 地方公共団体の三つの課題(予算不足・人不足・技術力不足)に対して、以下の支援方策を検討するとともに、都道府県ごとに『道路メンテナンス会議』を設置する。
  • メンテナンス業務は、地域単位での一括発注や複数年契約など、効率的な方式を導入

  • 道路インフラの現状や老朽化対策の必要性に関する国民の理解を促進するため、橋梁等の老朽化の状況、点検・診断結果や措置の実施状況等に関する情報を『道路メンテナンス会議』でとりまとめ。

 

近々にも、都道府県で「道路メンテナンス会議」が立ち上がると思われます。現状の指摘からの文脈では、地方公共団体(都道府県、市町村)にかなりの責務と労力が求められです。

発注形態も工夫がされるようで、道路関係の土木建設業、土木コンサルタント業界にとってもまとまった受注が得られるチャンスかもしれません。

新設の道路ネットワークも重要ですが、ここにきて道路維持管理に関する具体的提言がなされてことは健全な方向と思います。

「道路の交通容量」の業務適用のポイント その1

文献

交通容量についての文献は米国の「Highway Capacity Manual(HCM)」があるが、これは交通容量に関する原典というものである。ただしわが国の一般技術業務で用いられることは少ない。

わが国では技術業務の出典としては「道路の交通容量(日本道路協会)」日本道路協会が標準である。基本的には上記の「HCM」の和訳であるが内容は実務上必要部分に抜粋され、別途日本独自のデータ等も記載されている。

ほかに、交通工学学会より論文等が出版されているが、よほど専門的な分析で無い限り「道路の交通容量(日本道路協会)」で事足りる。

理解のためのポイント

定義と単位

・通常交通容量は時間当たりの処理可能台数で示される。

・単位は(pcu/時間)である。pcuという単位は「乗用車換算台数」という意味であるが、道路設計等の実務上は余り使用されずなじみがない。これはわが国の道路設計の指針書である「道路構造令」が計画交通量および設計基準交通量の単位を(台/日)としているためと考えられる。

単路部の交通容量

・「道路の交通容量」によれば、基本交通容量が定義されており、まず単路部の2方向2車線道路で2500pcu/時/2車線、次に 多車線道路及び1方向道路の基本交通容量で2200pcu/時/車線となっている。注(交差点部は別途定義)

・ここで、話がややこしくなるのは「2方向2車線道路で2500pcu/時/2車線」という表現。2方向2車線道路というのは白線の中央線がある道路であり仮に往復の交通量比が1:1であれば、1250pcu/時が交通容量となることを意味する。

・ただし、これは追い越し可能の2車線道路を前提としており、最近の高速道路で暫定2車線道路で見られる簡易分離帯のある構造や、黄色線の2車線道路については1700pcu/時/車線、または3000pcu/時/往復とする場合もあるようである。

http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn0317pdf/ks0317005.pdf

・このあたりの事情については、交通容量の適用場面が道路計画である、すなわちこれから道路を整備する場面で活用されていたことに起因すると考えられる。つまりは、そもそも分離帯のある2車線道路が例外的なものであること、また黄色線は交通規制方法であり道路設計段階では考慮されるべきでないこと(将来に担保されている事情でない)といった経緯が背景にあるものと考えられる。

以下続く

 

 

道路交通センサスとは?

概要

・おおむね5ヵ年に一回実施され、正式名称は「○○年度全国道路・街路交通情勢調査」という。

・最新は平成22年度に実施。

・調査内容は「 OD調査」と「 一般交通量調査」の2種の調査がある。

・ちなみに「センサス」とは国勢調査の意味で、人口に関する国勢調査のほか、「農業センサス」「経済センサス」という調査がある。

OD調査

・「OD」とは起点originと終点destinationの略語で、当該調査では自動車の起終点が調査される。主としてアンケートにより抽出調査され、集計解析段階で自動車登録台数(全数値)に拡大処理される。

・調査起終点と同時に車種・目的が調査されデータベースが構築され、さまざまに解析集計が可能である。

国交省等の道路整備の際に示される「将来交通量」推計の基礎データとなっている場合が多い。

・ほかに同様の調査では「パーソントリップ(PT)」調査がある。PT調査は人単位の移動を対象としており、その範囲は自動車交通以外の交通手段も網羅している。ただし都市圏単位で実施されるため全国一斉調査ではない。OD調査というと「道路交通センサス」を指す場合がほとんどである。

・なお、当該調査結果は概略やハイライトは国交省ホームページ等で公表されるが、調査結果であるデータベースはネット上には公表されていない。テータ使用(道路計画検討の場合など)の場合は国交省に申請し貸与される。(平成26年4月現在)

一般交通量調査

・道路の各地点・区間の交通量、構造(車線数)、旅行速度等が調査される。

・なにをもって「一般」と称されているかは不明であるがデータの意味するところが一般にもわかりやすいという意味では確かに「一般」である。

・つまりは、ここでの「一般交通量」とは「道路断面を通過した台数」であり、通常用いられる概念と一致する。

・データは国、地方公共団体のホームページに公開されている。

平成22年度道路交通センサス

・なお、調査データはほとんどの場合「実測(人手または観測機器)」であるが一部区間は推計値が適用されている。

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