「早い」「安い」「うまい」渋滞対策の考え方
1.渋滞対策の種類
一口に「渋滞対策」といっても、その種類は様々です。
渋滞は、交通容量に対して交通需要が超過している状態になったときに発生します。
容量側を増やす方法としては、「バイパスなど新しい道路を作る」「車線を増やす」「立体交差」などいわゆるハード対策があります
逆に需要減らす方法として「バス、電車など公共交通に転換」「時差出勤」「交通情報提供」など、いわゆる「交通需要マネジメント(TDM)」という考え方があります。前者のハード対策に対してソフト施策とよばれたりします。
高度成長期やバブルのときは、経済活動に道路は必要不可欠なものとして、また将来的にも自動車交通需要は増加していくことが前提でしたので、あまり深く考えないで、とにかく道路整備を進めていこう。「渋滞している。混雑している」→「道路が必要」という思考で十分理解が得られる時代でした。
人口減少が確実とされる現代では、「渋滞対策」=「新規道路整備」という図式は成り立たない時代となっています。
仮に対策メニューとして「新規道路整備」が必要となった場合でも、実際のところ道路が完成するのは早くて10年後、20年後なので、道路利用者側から見れば、あまり意味がない対策です。
一方「交通需要マネジメント(TDM)」などのソフト施策は、比較的安価に実施できて、また試行錯誤(やりなおし)もできるという点でも、合理的な手段です。ただ、対策としては「広く」「浅く」なので、「施策」と「効果」の因果関係がわかりづらいところがあります。
ひらたく言うと、行政(道路管理者、交通管理者)側の苦労の割には、いまいち評価がされにくいというジレンマがあります。
2.渋滞の原因は「交差点」
そこで比較的、安価、速効、わかりやすい対策として「交差点改良」があげられます。
以前、記事にしましたが一般道路の渋滞要因(ボトルネック)はほとんど「交差点」です。なにせ一日の半分は通行できない(信号の青時間比率が50%の場合)のですから当然です。それで交差点部分は「右折レーン」「左折レーン」など車線を付加して容量を増加させる構造としているわけです。このあたりは「道路構造令」にある通りで、道路設計者は「道路構造令」にならって設計していくわけですね。
ただ需要を見込んで設計整備した交差点でも、渋滞が発生(渋滞の先頭)している場合があります。交差点は単路部と違って右左折交通、歩行者が混在してる箇所ですから、様々な要因で容量低下が生じている場合があり、改良の余地がある場合がほとんどです。
それで、渋滞対策として「交差点改良」があり、大規模な道路整備ではなく、ちょっとした工夫で効果が・・という、まずまずキャッチーな施策となるわけです。しかも局所的なハード整備ですから効果の計測もしやすいという利点があり、行政側としても達成感が得られる施策といえます。
3.交差点改良コンサルティングのポイント
〇信号現示改良(青時間比率の最適化)は下の下の策
よく対策検討で「信号現示の変更」として「」という項目を目にしますが、仮に私が「道路管理者(国、都道府県、市町村)」側からの発注業務で検討するときはでは基本「禁じ手」にしています。
「青時間比率の最適化」とは、いわゆる交差点需要率計算をして、実測交通量に合わせて現況の青時間比率の最適化を提案するものです。
ただ、ほとんどの信号は、交通管理者(警察)によって、系統的システマチックに最適化されている、あるいはルーチンワークで適宜改良されているので、「道路管理者(国、都道府県、市町村)」側からの提案としては、釈迦に説法というところとなります。
渋滞対策としては当然「交通管理者(警察)」と連携しますが、図式としては「道路管理者」が構造的な改良を提案・整備→「交通管理者(警察)」が信号を最適化、という原則を念頭に置いておく必要があります。
〇速度低下要因を見つける
「速度低下」=「容量低下」です。もし、車両が連結されている電車のように一定の車間距離、速度で通行できていれば、容量低下は生じてないことになります。要は交差点の処理能力、つまり設計通りのパフォーマンスが発揮されているわけです。
実際はそんなことはなく、交差点の流入部で観察すると、青信号で交差点通過の際、ちょいちょいブレーキランプが点灯しています。
「ブレーキ」=「速度低下」=「容量低下」です。私の場合、まず現地では「青時間中にブレーキランプがどこで、どの程度点灯しているか」→「その原因はなにか」を観察することとしています。
〇見落としがちな改良点
さて「ブレーキランプ点灯(速度低下)」が生じていている箇所・原因の目星がつけば対策を検討います。
よくある「原因」→「改良点」としては
- 〇「右折レーン長の不足」→「右折レーン延伸」
- 〇「左折車が多い」→「左折レーンの設置」
- 〇「交差点内での蛇行、不規則停止」→「導流線(交差点内の右折車両導流・停止線)の設置」
などがあげられます。
このあたりは、定番となる対策なので、観察時も着目しておくことが必要です。逆に見落としていると、コンサル能力を疑わられます(笑)
そのほかに、見落としがちな改良点としては、下記のものがあります。
- 幅員の不足。以外と3.0m未満となっている場合があります。
- 左折車両と横断歩行者による阻害。交差点設計時に織り込んで計算されていますが、意外と現地では横断歩行者でまったく左折できない場合が生じている場合があります。
- 交差点手前の街路への左折(信号を避けて)が多い
- 交差点付近の沿道施設への出入り車両
- 交差点が大きい場合。一般には交差点は小さいほうが処理能力として有利とされています。
- バス停
と、いろいろありますが、文献としては下記のものがありますので、参考としてください。
交差点の渋滞要因は、一見すると突発的、軽微なもので、業務の文脈次第では「これは軽微であり渋滞要因ではない」とするときも正直ありますが、実際は軽微な要因の累積が渋滞となっていることはいうまでもありません。